papier d'armenie
アルメニアの紙、と名付けられたこれは、先日東京に帰った際に丸ビルの文房具店で見つけて買い求めたフランスの紙のお香。少しばかりレトロでエキゾチックなデザインのブックレットスタイル。手に取ってパラパラと捲ると微かに甘い薬草のような香り。
そういえばサンタ・マリア・ノヴェッラでも同じような紙のお香が出ているけど随分と高価だと思った。このパピエは値段も安価で庶民的だ。創業1885年というから、120余年。値段は永く愛用される理由でもあるのだろう。
使い方は簡単。点線に沿って長方形の紙を切り離し、横森良造さんのアコーディオンのような形に折って火をつけたら直ぐに消す。じわじわと燻りながら煙が昇る。一枚の紙が燃え尽きるまでほんの一分程。煙は紙の焦げる匂いが強く香りはしかしほとんど感じない。もしや湿気っているのかと思ったが、そうではなかった。実はアルメニアの紙は普通のお香のように煙そのものが匂いを運ぶわけではないよう。紙にしみ込ませてある成分はというとベンゾインという安息香。その効能書きによると、本来はデオドラント、部屋の消臭、空気を浄化する作用のものだそうだ。
勿論モクモク煙が出て箪笥の陰でゴキブリが苦しがる程のものとはハナから思っていなかったけれど、ちょっとイメージが違って期待はずれ、なんだかあっけなく、もの足りない感じがしたのだった。ふーむ、デザインに惹かれて買ったはもののちょっとハズレかもしれない。。でもそう高価なものでもないので、いつもの勉強代と思う事にするか。。
ライアル・ワトソンの「匂いの記憶」という本によると、もともと動物には言わゆる麝香を感じる器官があって、それは発見者の名前をつけてヤコブソン器官と呼ばれる。簡単に言えば、哺乳類が異性のフェロモンを感じる部位。ヒトには嗅覚器官が残り、ヤコブソン器官は退化して機能しなくなっているというのが定説だけど、ワトソンはそうではないと言う。性的な刺激も含めてヒトの第六感を司るのはこの超嗅覚の鋤鼻器、永く眠っていると言われるヤコブソン器官であると主張する。
顔に表情が出るように、ヒトは匂いの情報も発信している。怪しいやつのことををクサい、危険や犯罪をキナ臭いニオイがすると言ったりするのは、実は表現が本能的な感覚に合っているからだろう。
ニオイが記憶と結びついているのもよく知られることで、我々にも経験がある。いわゆるプルースト効果というやつだ。
お線香で子供の頃のお婆ちゃんの家を思い出し、プールの塩素臭は木漏れ陽の下の汗と鼻の奥のツンとした感覚を呼び起こす。耳の中の水の音。そしておにぎりと麦茶。夏が来れば思い出すのは尾瀬だけとは限らない。街なかですれ違う人に、昔の恋人を振り返るとか。
嗅覚と聴覚、耳鼻の器官が他のそれと違うのは、いつも外に開いていて働いているということだ。眼は閉じる事が出来て、自分の意志で黙る事も断食も口には出来る。身を守る本能に直結しているという意味で耳と鼻は、眼や口よりも大切な働きを前段で担っている。だから後段の脳には例えばカクテルパーティの機能があり、まるでオーディオのミュートのように意識の閾値も可変出来るように設けてあるという訳なのだろう。もっとも最近は耳の方はiPodってヤツのためにイアフォンで閉じられていることが多いから、鼻はその分キツいシゴトが増えているかもしれない。
近寄るな オナラは誰にも防げない
オナラは音がすれば気がつく事が出来るけど、スカシはなかなかタチが悪い。イアフォンしてたら尚更。ふと近づいた野郎が一発いたした直後だった時、さてあなたはどうするか?
そんな時は緊急事態だから、急いで耳からイアフォンを外して鼻の穴に挿す、が正解です。だからヘッドフォン型よりカナル型が良い。ピンポン
そんなくだらないことを考えているうち、ふと香ってくるのです。忘れた頃に甘いアルメニアの紙が。煙も消えてポットの中でとっくに灰になっているというのに、仄か(ほのか)に空気に混じって匂うというのだろうか。普段は感じない、意識していない空気の存在というものを感じるようになる。ちょっと普通のお香とは違う不思議な感覚です。
そもそもこんなお香を欲するというのは、疲れたり、リラックスしたいと本能的に思う時だろう。あまり自分は好きなコトバではないけれど、癒しというやつだろうか。
仄かというのは文字通り灰の火種が失せるということだ。後に残るのは、時の余韻みたいなものなのかもしれない。
どこかで見つけたら、手に取ってみて甘い匂いが嫌いでなければ、ダマされたと思って買ってみてください。創業1885年はダテじゃないかもしれない。
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