白い花
しかし私が寄り添わなくても、こうして我が家の蜜柑の樹に花は咲く。
可憐という字を形にしたら、きっとこんな白い花弁になる。
ほんの1週間ほどの命は短い。
大きなミスジクロアゲハが、ふらふらふらと樹の周りを飛び回っている。
羽を休め産卵する葉はとっくに決めているくせに、それでももっと素敵な
若い葉を探し選り好みするように、思わせぶりするように。
蝶と蜜柑の樹の間には、明らかにコミュニケーションがある。
モンシロもジャコウもアゲハも、おおよそ蝶の振る舞いはシャイだ。
そしてある日、ひと夏を待たず役目を終えた後の蝶は、地面で大勢の蟻に
取り囲まれている。
最初に失くなるのはキラキラしていたはずの羽の部分で、みる影もない。
蟻はただ奴隷のように忙しく動き回り、蝶とともに蟻もまた誰かに
使い捨てられる。捨てられた蟻をまた動いている蟻が運んで行く。
彼らの命の長さは必要以上にはプログラムされていない。
けれど遺伝子というワンタイムのパスワードを繰り返し使うことで
子孫は長く遠くまで行くことができる。
自分たちの命を延ばそうとする、することができるのはヒトだけではないか。
儚さを感じこそすれ、彼らにものの哀れさはない。
約束通り、土へ還るからだろうか。
花や蝶を美しいと感じるのは、ひとつは潔さにある。
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